「来客用のコーヒー入れようとしたら、熱湯こぼして火傷した」「現場で作業していたら、上から物が落ちてきて頭打った」「通勤途中に事故に遭ってケガした」これは労働災害、いわゆる労災事故です。(通勤途中の事故は通勤災害です。)
今回は労災について詳しく紹介します。
労災の概要
業務中に、また通勤途中にケガをして医療機関にかかった場合、その医療費用は負傷者は負担しなくて済みます。(ただし、診断書等の文書料は対象外です。)
しかし、一口に労災と言っても状況やケースは様々なので、1つずつ見ていきましょう。
業務中の災害(労働災害)
業務中にケガをして医療機関にかかった際は、労働災害の対象となります。
怪我をして医療機関にかかることになった際はすぐに会社の総務部に事故の発生状況とかかった医療機関を連絡しましょう。もし、薬局にもかかった場合は薬局名も連絡してください。
総務部で「様式第5号 療養補償給付たる療養の給付請求書」という書類を作成しますので、そちらを受け取ったら本人の署名欄、捺印欄に署名、捺印をして医療機関、薬局に提出してください。
通勤途中の災害(通勤災害)
通勤途中に怪我をして医療機関にかかった場合は通勤災害の対象となります。労働災害と同様に、発生状況とかかった医療機関、薬局を総務部に連絡してください。
総務部で「様式第16号の3 療養給付たる療養の給付請求書」という書類を作成しますので、そちらを受け取ったら労働災害のときと同様に署名、捺印をして医療機関、薬局に提出してください。
しかし、通勤災害の認定は複雑で、対象になる場合とならない場合があります。寄り道をせずに通勤していた場合は明確ですが、寄り道した場合は状況によります。また、自宅の敷地内で負傷したときも、場合によります。
寄り道をした場合
次のような場合は通勤災害とみなされます。
- 帰り道にスーパーマーケットで食材や日用品を買って、そのあとスーパーマーケットを出てからケガをしたとき(スーパーマーケットの中でのケガは通勤災害対象外です。)
- 帰り道に公衆トイレに寄って、その後また帰宅しようとした際にケガをしたとき
- 帰り道に自動販売機で飲み物、軽食を買って公園で飲食した後に帰宅しようとした際にケガをしたとき
帰りに飲食店、居酒屋等に寄って飲食して、その帰りにケガをした場合は、例えいつもの通勤経路でも通勤災害とみなされません。
自宅の敷地内で負傷した場合
こちらは、一軒家か集合住宅かによって変わってきます。
集合住宅は、自身の部屋を出たらそこで通勤開始になります。そのため、例えば集合住宅で自身の部屋から出て、集合住宅の階段から落ちて負傷した場合は通勤災害の対象となります。
一軒家の場合は、家を出て、自宅の敷地を完全に出てそこでようやく通勤が始まります。そのため、自宅の駐車場等で負傷したという場合は通勤災害の対象となりません。
かかる医療機関が変更になった場合
もし、労災事故で負傷して、かかっていた病院を変更した場合は、総務部に連絡してください。総務部で「様式第6号(通勤災害は様式第16号の4) 療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を作成します。届いたら署名捺印をした上で労働基準監督署に提出します。
4日以上休業することになった場合
もし、4日以上業務に就くことができずに休業することになった場合、「労働災害休業補償給付金」を申請することができます。※休業最初の3日間は待期期間とみなされ、支給の対象外となります。
こちらは、医師から労務不能と診断されている間はずっと申請することができます。社会保険の傷病手当金(最長1年半)と異なり、特に期間はありません。会社から「様式第8号(通勤災害は様式16号の6)休業補償給付支給請求書」の書類が届いたら、負傷者本人の署名と捺印、そして医師による証明をもらったうえで、会社に提出してください。
支給額は、負傷前3カ月間の給与の平均日額を算出し、その平均日額×休業日数(公休も含む)×0.6が支給されます。社会保険の傷病手当金と同様に、普段支給されている賃金の6割が支給される形になるのですね。
装具を作成して装着した場合
サポーター等の装具を作成すると数万円かかります。結構痛い出費ですよね。でも、安心してください。こちらも労働基準監督署に申告すると費用が戻ってきますよ。
「様式第7号 療養補償給付たる療養の費用請求書」という用紙を病院でもらえた場合は、負傷者の署名と捺印をして、装具作成にかかった費用がわかる領収証を添付して総務部に提出してください。用紙がない場合は、総務部に連絡してください。
労災はケガだけでなく精神疾患も対象となる
労災はケガだけではありません。パワハラや長時間労働、残業を苦にした自殺や過労死、精神疾患の発症も労災の対象となる場合があります。
皆さん、電通の女性社員の自殺事件は記憶に新しいのではないでしょうか。東大卒の電通の女性社員が上司からのパワハラを苦に、クリスマスに自殺したという事件がありました。自殺の原因が上司からのパワハラだったため、この女性社員の自殺は労災として認定されました。
近年、会社でパワハラを受けて精神疾患を患い、労災として認定されるケースが増えています。ここで、会社でパワハラを受けて精神疾患を患った際の労災申請方法を紹介します。もしかしたら自分の身に起こるかも・・・と思って頭の片隅に入れていただけると幸いです。
パワハラによる精神疾患で労災認定される条件
精神疾患を患ったら必ず労災認定されるわけではありません。パワハラによる精神疾患で労災認定されるには条件があります。条件は下記の3点です。
- 定められた精神疾患を発症したこと(※)
- その精神疾患を発症する半年前までに業務上で強い心理的負荷(パワハラ、長時間残業等)が認められたこと
- 業務外で精神疾患を発症したと認められないこと
※統合失調症、うつ病、躁うつ病等が対象となります。
労災申請方法
まず、労働者労働災害保険請求書を本人か家族が管轄の労働基準監督署に取りに行くか、厚生労働省のホームページからダウンロードします。(書類は5号、7号、8号の3種類です。)続いて、病院から診断書をもらいます。そして、書類を記入したら、5号用紙は病院に、7号用紙、8号用紙は管轄の労働基準監督署に提出します。
会社の承認を得やすいように、診断書は必須です。診断書には会社で強い心理的負荷があったことを記載してもらうと良いでしょう。会社が承認印を押印してくれない場合でも、労働基準監督署に事情を話すと、会社の承認印なしでも申請可能です。
まとめ
今回は、労災について紹介しました。大まかなポイントは下記の通りです。
- 業務上のケガ、通勤途中のケガ、場合によっては業務上の出来事が原因で精神疾患を発症した際に対象となる(診断書等文書料は対象外)
- 4日以上休業することになった場合は、休業補償給付を申請することができ、給与の6割を受け取ることができる
- サポーター等の装具を作成した際も、労働基準監督署に申請することで、作成費用が戻ってくる
私が会社員時代に勤めていた会社も現場での作業の会社のため、労災事故が結構多かったです。機械に手を挟んだ、積み上げたものが崩れ落ちて頭に当たった・・・等。労働基準監督署から是正勧告が入ったこともあります。また、パワハラ等で精神を病むというのはやはり聞くと心が痛くなります。
労働者本人が気を付けることももちろん大切ですが、会社側も労働者が快適に働くことができる職場づくりが求められるのですね。