パワハラ、すなわちパワーハラスメントという言葉が定着し、自身がパワハラを受けている認識を持っている方も増えてきました。
実際、2017年の厚生労働省の調査、「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にパワーハラスメント(以下「パワハラ」)を受けたことがあると回答した方は30%超という結果が出ており、2012年と比較して10%近く増えていることは、このパワハラ認識を持っているからにほかならず、会社内外での界隈においても、パワハラを受けた、受けていないと言った会話が増えてきているのも事実です。
今やパワハラは社会問題となっていて、働き方改革を進める政府においてもこの状況を問題視していて、パワハラの防止を企業に義務付ける法律ができることが決まりました。これを改正労働施策総合推進法といいます。
では、改正労働施策総合推進法ができることによって今後どのようなことになっていくのか本編ではお伝えしていきたいと思います。
改正労働施策総合推進法で何が変わるか
では、パワハラを防止する改正労働施策総合推進法で何が変わるのでしょうか。まずはそのポイントについて説明をしていきたいと思います。
パワハラの定義が決まった
改正労働施策総合推進法において、まず重要なのはこれまで定義があいまいだったパワハラが法律によって明確に定義されたことです。
では、どのように定義されたのかというと、優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えた言動で労働者の就業環境を害することとなります。
つまり、上司部下、また、先輩後輩など上下関係があるなかで、恫喝する、いじめにつながることなど度を越えたことを言う、行うことをパワハラと明確に言うということが正式に決まりました。
パワハラ、パワハラじゃないという議論が労働争議の中で幾度となく行われていましたが、これによって、パワハラの尺度が決まり、パワハラかどうか認定しやすくなったということが言えます。
また、厚生労働省は、パワハラの6類型ということで、具体的なパワハラ行為についても明確化させました。
具体的には以下の通りです。
- 身体的な攻撃:殴る蹴るなどの暴力
- 精神的な攻撃:言葉の暴力、精神的にやせ細るような行為
- 人間関係からの切り離し:仲間外れや無視など人間関係を悪化させるような対応
- 過大な要求:絶対不可能な命令を行う、もしくはかなり無理をさせるような命令をする
- 過小な要求:仕事をさせないようにする
- 個の侵害:個人のプライバシーを侵害するような行為
これによって、使用者、上司、また先輩後輩の関係においても、パワハラを意識して業務を行うことも期待されていると言えるでしょう。
最短で2020年に施行される
改正労働施策総合推進法に関しては、大企業では2020年4月、中小企業では2022年4月に実施される予定となっています。
政府としては早々に運用できるようにするため、整備を進めています。
罰則規定は設けず、厚生労働省の指導対象となる
改正労働施策総合推進法に関してパワハラの定義を明確にしましたが、上記のパワハラに該当するようなことがあったとしても罰則規定は設けていません。
ただし、政府は企業に対しては、パワハラを防止していくこと、そして万が一パワハラが発生した場合は、再発防止策など講じることを求めていき、それがなされない場合は改善命令を出していきます。再三にわたる注意を行ったにも拘らず、パワハラが改善しない、またそれが悪質な場合は、企業名を公表すると言った取り組みをしていくことが決まっています。
パワハラは認定が非常に難しい
ここで疑問に思った方もいるかもしれませんが、なぜパワハラに対し罰則規定を設けなかったのかについても説明をいたします。
結論から言えば、まだまだパワハラと指導の明確な境界線を引くことが難しい、これに尽きます。
実際、有識者からもセクハラなら自己申告、すなわち自分が嫌だと思った行為を上司や先輩が行った場合はセクハラになるけども、パワハラか否かを判定する場合は、客観的な判断が必要で、本人がパワハラだと思ったとしても、客観的に見れば、それだけ厳しい指導を受けないといけないような行為をしている可能性もあり、単純化できないケースも想定されるのです。
また、問答無用でパワハラだと言えるものについては、パワハラの6類型の中では身体的な攻撃くらいしかありません。どんな理由があれども殴る蹴るなどの暴行は業務上の指導としては行き過ぎていると明確に言えます。
しかし、他の行為に関しては、パワハラだと言える場合も、言えない場合もあります。
例えば、精神的な攻撃については、飲食の現場で、人体に影響を与えるようなものが混入したら大ごとです。そのため、洗剤が皿に付着したままで皿洗いを終わらせているような従業員がいたとしたら、料理長は間違いなく激怒するでしょうし、場合によっては危なすぎて、調理の現場に立たせないというようなことをやったとしてもこれをパワハラと認定するには無理があります。
しかし、できの悪い後部下に対し、死ねだのめざわりだのという言葉をかけてしまった場合は、人権無視、また業務上根拠のない誹謗中傷となりますのでこれは明らかにパワハラです。
このように、ケースによって、また状況によって、パワハラになるものとそうではないものがあるため、パワハラ認定は慎重に行わなければなりません。
しかも、もし、パワハラ被害が発生したことがマスコミ等で取り上げられてしまった場合、その風評被害ははかりしれないものになりますので、安易なパワハラ認定はできないというのが政府の判断です。
そのため、パワハラだと疑われる会社があった場合は、地道に向き合い、改善を図っていく、もしもパワハラの指導・改善命令を何度やっても治らないという企業があればその風評被害については甘んじて受けてもらうというのが今回の改正労働施策総合推進法の大まかな趣旨だと考えて頂ければ良いです。
パワハラは根深い問題!1つ1つ解決していくことが求められる
今回のパワハラ防止義務化を明記した改正労働施策総合推進法については、パワハラを厳しく取り締まるという趣旨ではありません。そのため、この法改正が行われたからと言って、パワハラが劇的になくなるということはないと言ってもいいでしょう。
それでもこの法改正について意義があるのは、パワハラの定義が明確になり、かつ国がパワハラについては明確にダメだと言い、もしもパワハラが発生する場合にははっきり改善しなさいと指導をできることです。
国がダメだと言えば、会社は社会的な立場を考え、パワハラが起きないような体制づくりを各社で検討するようになりますし、国が指導、改善を促したにも関わらず、パワハラ体質が改善されない会社は、公表され、顧客が離れ、従業員が寄り付かないというような状況になり、その会社が社会の中で事業を継続していくのが難しくなります。
何より、法律でパワハラがだめなんだとはっきり言えるようになれば、一定の抑止力にもつながり、これまでパワハラ行為を行っていた人がパワハラをしなくなる効果も期待できます。
パワハラを本当になくすためには、何より個人の意識を変えていくことが必要で、それには長い期間をかけなければいけません。個人の意識や考え方を変えていくことは容易なことではないのです。
そういった観点で、パワハラが法律でダメだと明確化したことは大きな一歩だと言えるのです。
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